世界的インテリアデザイナーのトークを聞いて感じたこと
前半ではインテリアデザイナーにとってインスピレーションの宝庫であるDesign Centreを中心に開かれたLondon Design Weekの様子をお伝えしましたが、(前半の記事はこちら)
後半では、私が聞きに行った2つのトークイベントでの話をお伝えしたいと思います。
前半でも書きましたが、このDesign Centreは数多くのインテリアのショールームがある場所で常設です。なので、イベント期間中はこの時期限定のイベントに参加するようにしています。それは、各ブランドの新作発表会やワークショップ、また経験豊富で影響力のあるセレブデザイナーによるトークイベントです。インテリアデザインの世界にも、流行や大きな影響力を持つデザイナーが存在し、こういったイベントで開催される彼らのトークはとても大きな学びの場です。講演会に行く!という感じでしょうか。
今回開催予定のイベントをパラパラと見ていた時です。
これはぜひ行きたい!!と思ったトークイベントは2つ。
どちらもロンドンをベースに世界的に活躍するインテリアデザイナーによるトークです。
一般には知られていない方々かもしれませんが、私は隠れ(る必要もないですが)ファンなのです。
1人目は、Fransis Sultana (名前をクリックするとウェブサイトにジャンプします)
イギリスのハイエンドインテリアマガジン”HOUSE & GARDEN”の Top100 Interior Designers にいつも名を連ねている方です。数多くいるインテリアデザイナーの中で、そこに名を載せ続けるというのはすごいことです。
Malta出身、ロンドンに来てDesign Galleryでキャリアを始めたという彼は、現在でもアートギャラリーのオーナーでもあります。その彼のインテリアは、とてもアーティーでエクレクティクでボールド。
こういうデザイン見たことない!と一目でノックアウトされて以来のファンです。
2人目は、Kit Kemp
ロンドンにも複数あるFirmdale Hotels のオーナー兼デザイナー。様々なものをミックスさせたエクレクティクスタイルが特徴的で、”エクレクティクの女王”と呼ばれています。
私も数年前に彼女のデザインに一目惚れして以来のファン。もちろん本も持っています!ロンドンにいくつかあるホテルに日常的に行けるのが嬉しいです。私の個人的なオススメは NUMBER SIXTEEN. South Kensingtonのテラスハウスの中にあるホテルは、他のホテルと比べると混んでいなくて、まるで友人宅に招かれたかのようなリラックスした雰囲気。ここに誰かを連れて行くと必ず驚いて、そして喜んでもらえる場所です。
ある夏の日にランチに行ってくつろいでいる私。中庭はまるで都会のオアシス!
そのデザインを見れば誰のデザインかが一目でわかるほどの、確立したスタイルをもつ2人のデザイナー。
彼らがどういう人なのか、どのようにそのデザインを創り出しているのかを少しでも知れればと、楽しみに行った私。
会場はリラックスした雰囲気で、またまたシャンパンなど出てくるわけですが、それを飲んでは話がきちんと聞けない!と、誘惑を振り切りました。笑
周りはのどか~に聞いている中で、せっせとメモを取りまくる私は、結構奇妙な存在だったかもしれませんが、、、いいんです、ここはしっかりお話を聞きたいところなのです。
お二人の話はいずれも対話形式でした。
何からインスピレーションを受け、どのようにデザインしているか。
それは、これとこれを合わせればこんなインテリアができますというテクニックの話ではありません。彼らのデザイナーとしての着眼点やプロセスは、まるでブラックボックスの内部特別公開(?)という感じで、抽象的ではありますがとても参考になるお話ばかりでした。たくさんの話が出ましたが、私が気になったところをご紹介したいと思います。
最初に聞いたFransis Sultana(写真左)が語っていたのは、”デザインのグローバリゼーション”。
”人々はデザインを買うためにロンドンに来る”
”デザイン、そしてデザイナーがグローバルになっている”
デザインのグローバル化、どういうこと?という感じがしますが。。
彼のプロジェクトの場所は75%がイギリス以外のヨーロッパ各地やアメリカにあるそうです。ロンドンは世界中から人々が集まる国際都市。ロンドンのインテリアデザイン事務所では、事務所はロンドンにありながらも実際の現場はイギリス国外にある、というのは良く聞く話です。
それならオフィスがロンドンにある必要はあるのか?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。インターネットが発達している時代で、しかも現場はイギリスの外です。
でも、彼は敢えてオフィスをロンドンに構えています。ロンドンの多様性のある文化、デザインを含む様々な中心地としての存在感が魅力だから、と言います。かつてはデザイナーが多く事務所を構えるチェルシー(Chelsea)にあったオフィスをわざわざヴィクトリア(Victoria)近くの中心地に移したのも(東京で言えば、青山から丸の内に移した感じでしょうか)国際色豊かな彼のクライエントにとって、必要に応じて立ち寄るのが便利だからだそうです。
ロンドンという国際都市の中心にいることの意義。そこから得るものの大きさがあるからこその、オフィス所在地なのでしょう。
人、モノ、コト、全てにおいて、この豊かな歴史に培われたロンドンには様々な人がいて、様々なことが日々起こっている、と一般市民の私ですら日常的にそう感じます。
この都市にあつまった人々がそれぞれのバックグラウンドやネットワークを生かして、この都市から自らのデザインを発信していくというのは自然な流れだと思いました。
だからこそ、大切だと彼が言っていたこと。
Identity (独自性)
Personality(個性)
History (歴史)
様々な人がいても、独自のスタイルを確立し、ユニークであり続けるため彼のデザイン。
平均的なプロセスなどないそうです。
常にそこに住む人々、建物の有り様からインスピレーションを受けて形づくっていく。
クライエントとプロフェッショナルな関係を保ちつつも、近い存在を築く。
だからこそ、世界のエリートから信頼されるデザイナーとして第一線を走り続けているのでしょう。
彼が扱う現場の中には歴史的建築物も多いそうです。ロンドンでは数百年前の建物は外観はオリジナルのまま存在し、内部空間だけが見事に今の時代に合う様になって、受け継がれています。
その最初に行うことはその建物の持つ歴史の研究、そしてそれに基づく修復とのことです。
既存の建築物の歴史を生かし、そこに現代性と機能性を取り入れてさらに発展させる。何も考えずに全てを取り払うということは絶対にありません。
やはり、その建物の持つ歴史の上に、未来は築かれていくのです。
長い歴史のある建物ひとつひとつの歴史に向き合い、そこからインスピレーションやアイデアを見出し、彼のデザインで個性を加えていく。それこそが次世代にのこるべきデザインになっていくのでしょう。
抽象的な話ですが、彼のユニークなデザインを見ていると、それがよくわかります。
そして、そのような技を持つデザイナーは魔法使いではないかと思えてしまうのです。
”デザインのグローバル化” ということで、”グローバルになる”というはどういうことかと考えてしまいました。
私自身はまだ模索中のところも多いのですが、10年近くになる外国生活の中で思うことは、”結局自分のルーツはどこにあるのか” ということです。
囲まれたところから外へ出れば異文化に出会います。その中で改めて”自分自身”について振り返るというのは、私自身も最初の海外生活で体験したことでした。
様々なものがひしめき合うからこそ、自分について、その個性と独自性に気づいていることは大切で、そのヒントはそれまでの道筋(歴史)の中にあると思うのです。
そう考えると、グローバル化というのは実は外に行くことではなくて、むしろ元々ある核に向かうことこそが大切なのではないかと思えてきます。
次に聞いたのは、エクレクティックの女王として有名なKit Kempのお話。
” Mix of Old & New “
” Collection ”
彼女のデザインはCollectionの賜物です。時代の異なるものだけでなく、異なるエリアのものもあります。
上で出した写真と同じものですが、インテリアにあるものを良くみると、どこから集めてきたの?と思う様なものばかりです。
彼女のデザインの多くはホテルです。
ある現場では、世界中から訪れる様々なバックグラウンドの人それぞれが親しみを感じられるように、それが何かを研究して取り入れているとおっしゃっていました。
お話も面白いのですが質疑応答も興味深いです。飛び出す質問とその答えが新たな質問を招きます。
”使われるユニークな物たちは、どこから見つけて来るのか”
彼女のデザインに感動した人なら、皆それが気になるでしょう。
”いつも好奇心を持って探し続けること”
”好きだと思うものの写真をいつも持ち歩いている”
”常に学び続け、スタイルを発展させていく”
その尽きることのない好奇心と行動力、誠実で真っ直ぐなお人柄が彼女の生み出すデザインの魅力なのだと思いました。
先月新しい本を売り出したばかりのKit Kemp。
この日のイベントではその本も販売していてなんとサインまでしてくれるとのこと!!
もちろん買って、サイン頂きました。笑
名前まで入れてもらえて感激です。。
" Have fun"
楽しむこと。それが何よりの原動力なのですね。
一緒に写真も撮ってもらいました。
明後日の方向を向いているのが気になりますが、いい思い出です。とてもきさくでいい方でした。
素晴らしいデザイナーは人間としても素晴らしい方々なのだと改めて実感しました。
最初のFransis Sultanaも、常に インスピレーショナルなものをスケッチし、それを発展させていくとおっしゃっていました。
”デザインは完成ではなく、発展の可能性があるもの”
それはお二人のお話から感じたことでした。
素晴らしいデザインを生み出すデザイナーが日常的にしていること。それは基本的で大切なことをきちんと積み重ねていくことなのだと感じました。
この話を聞いて、自分に活かせることは何だろう。
焦らずに、まずは自分にできることから、基本的なことを確実に積み重ねていくこと。
自分のスタイルや可能性を探し、トライし、発展させていくこと。
この国際都市ロンドンで、日々多くのデザイン情報やイベントに出会えることに恵まれていると思う反面、外ばかりに目が行って、ふと自分がわからなくなる時があるのです。
でも、やはり思うのは、私の核は生まれて育って30年近くも住んで来た日本です。
もちろん今もこれからも多くのことを吸収して、いろいろ見続けます。
立ち位置は少しずつ日本より外側になっていて、日本人でなくなりつつあると感じることも多い(参考:日本人だった私)ですが、核となる部分を維持し、これからも私なりの視点を深めていきたいと思うのです。
世界で活躍するデザイナーのトークからは、多くの気づきと学びがありました。
ひとつひとつの出会いを大切にして、これからも頑張っていきたいと思います。
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