キッチンリノベーション秘話
上の写真のキッチンリノベーションの時のお話です。その他の写真はこちら
このプロジェクトのお客様との出会いは2016年12月。私がその数ヶ月前にさせて頂いたお客様からのご紹介でした。
そのお客様のご自宅では、エクステンション(増築)時のキッチンデザインとその後の内装と家具の色やアイテム決めをさせて頂きました。
お二人の会話でキッチンリノベーションが出て、私がご紹介を頂いたのがきっかけです。
このキッチンのお客様、実はキッチンリノベーションは何年も前から検討していたそうです。ついに決断し、ネット検索で見つけたあるキッチンショールームの”ご自宅でのコンサルテーション”を受けられたそう。
カタログを抱えた”セールスデザイナー”という男性がやってきて、ちゃっちゃっとキッチンのサイズを図り、ドアは何がいいですか?カウンタートップは?と話が進み、後日見積もりが送られてきたそうですが、それはお客様が夢見ていたキッチンとは程遠く、お客様は夢の分だけ意気消沈されたそうです。
私はまずお客様との世間話のような会話から始めました。なぜ今のキッチンが不満なのか。なぜリノベーションしたいと思ったのか。どんな風にこのキッチンを使うのか、もっと言えば、どのようにこの家で暮らしたいのか。好きなスタイルはもちろんのこと、お仕事、休日の過ごし方、好きな食事に趣味の話等。
お客様がキッチンでお茶を煎れて下さっている時に何気なく出た一言です。
「今のキッチンは独立だから、ホームパーティーの時とかキッチンにいるとゲストと会話が遠いのよね〜」
上の完成後の写真の、カウンターになっている部分は、もともと壁でした。
私はお客様に、”もしこの壁を抜けて隣の部屋と繋げて対面キッチンにできるとしたら、ご興味ありますか?”と聞きました。もちろん構造専門のストラクチャーエンジニアに見てもらわなくてはいけませんし、その結果ではできない可能性もあることもご説明した上で、です。
”えー、そんなことできるかもしれないの??できるなら、ぜひしたい!!”
あまりのお客様のテンションの上がり具合に、万が一できなかったらどうしようと一瞬焦りましたが、ストラクチャーエンジニアによると構造的には可能とのこと。お客様の意気消沈しかけていたキッチンリノベーションへの夢は、今度は対面キッチンへと膨らみはじめました。
それと共に、すでにヒアリングしていた内容に基づいて、デザインの全体の方向性も用意しました。
ムードボードと言われるこちらは、空間の雰囲気、色、形、質感といった目指す方向性を表すものです。
お部屋のインテリアやそれまでの会話から、どのようなものがお好きそうかを察してご用意しました。
好みがはっきりしていらっしゃるお客様なので、フィードバックも明確でした。
ムードが決まったら、それを具体的なアイテムに落とし込んで目指す方向を明確にし、希望のキッチンのレイアウトも作っておきます。それをコンセプトと言います。
キッチンのドア、キャビネット、カウンタートップ、その他各アイテム、ビルダー等々、リサーチすることはたくさんあります。お客様はキャリアウーマンで平日は超多忙な方です。
コンセプトに応じて、私が様々な会社とやりとりをし、見積もりを取っておきました。最終的には1日訪問日を設けて、各ショールームをまとめてまわりました。もちろん各ショールームとはあらかじめ私の方で下打ち合わせをしておいて、この日は実物の確認が主な目的です。
夢を形にするために、多くのリサーチやサプライヤーとのやり取りが必要です。
そういったことも含めて行うことが、キッチンデザインのプロセスのページで紹介している(2)デザイン業務です。
実際に工事に入る前に、レイアウト、仕上げ材等の仕様も全て決めておきますが、この作業は想像以上に時間がかかります。
でも、ここでしっかり計画を練っておくことで、その後の工事がスムーズに進むのです。何事も段取りが大切です。
デザインが決まったら、次のステージ3、アイテムの手配と工事に移ります。
アイテムを注文して揃えておきます。納期が数ヶ月かかるものもあるので、それも考慮して全体のスケジュールを調整していくことが必要です。
実際の工事が始まると、あっという間に進んでいきます。リノベーションの場合は、始めてみないとわからないことが多々あります。
現場で職人さんと打ち合わせを重ね、微調整をしつつ、必要に応じてお客様とも現場で打ち合わせをして進めていきます。
最初の頃は毎日の変化がとても大きいです。
この壁の開口部も工事開始2日目にはこの状態。さすがのお客様もびっくり。
進むにつれて、細かい作業が増えてきます。きちんとデザインの通りになっているか、納め方、仕上げについても現場できちんと職人さんと打ち合わせや確認をして仕上げていきます。
そうしてこのキッチンが出来上がりました。完成写真はこちら
振り返ると私にとっても、感慨深い日々です。
最後になりますが、この現場は当初お客様が考えていたよりも、予算も時間もかかりました。
私が壁に開口部を開けて対面キッチンという提案をしたからです。その後もお客様とは友人としてお付き合いをさせて頂いていますが、時々 ”洋子さんに壁を開けたらと言われちゃったからね~”とからかわれます。(笑)
でも、経験則上思うのは、過ぎればかかった時間とコストのことは気にならないものです。もちろんどれくらいのオーバーかにもよりますが、数ヶ月の遅れよりもその後にそこで暮らす日々の方が長いからです。
それよりも、夢が叶った、したかったライフスタイルを手に入れたという喜びの方が遥かに大きく、それは日々をとても豊かで幸せにしてくれるものだと思うのです。
お客様がおっしゃった一言に、私はとても嬉しくなりました。
”このキッチンを見るたびに、いつも幸せな気持ちになる”と。
私にとっても、デザイナー冥利につきる一言でした。
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